故障率の高い設備を類似故障ゼロ化に!ワイブル分析・信頼性解析による計算で保全予算確保!

プロセスエンジニアの仕事の中に保全予算の確保があります。新しい設備を開発して材料費などを計算して積み上げる開発予算やと、故障率を計算し、いかに小さく維持させるかを考えた設備診断と機器メンテナンスに必要な保全予算です。毎年同じような割合で故障すると計算して予算は確保されるのですが、私の経験では、特定の設備で故障率が徐々に高くなり故障が発生しやすくなっていくのです。そしてその部品が寿命となり一斉交換が必要になったときに大きな費用となるので揉めるのです。

信頼性工学による保全予算確保

「その故障設備は本当に寿命がきているのか?故障率の変化は?」「故障発生した際の修理対応ではだめなのか?」「寿命以外の要因の検討はしたのか?」「MTBFの延長はできないのか?」などの質問や指摘が次から次へと私たちの提案に対して矢継ぎ早やに投げかけられます。
それらかいくぐって、適切なメンテナンスのための保全予算を何度も確保してきた事例を紹介します。そこで活用してきたのが、信頼性工学のひとつであるワイブル分析です。

恐ろしい寿命がきてしまった故障率高い設備機器

私も経験したことがありますが、テレビの故障はタイマーがあるかのように、一度故障が発生すると次々に故障し出すとよく言われています。これは民生用のテレビに限らず、生産設備に使われる機器でも同じことが起こる場合があるのを私は経験してきました。

生産プロセスに故障が発生したら少し前まではその都度修理や交換をして対応していても、いざ寿命がきだしたら次々に故障し出して手に負えなくなることがあります。私たちプロセス設計者としては、実はそのような故障を診断し多発し出す前に、早く全数交換してしまって急な故障を避けないといけません。突然の生産ラインの停止によって、仕掛品の大量の品質不良が発生したり、最悪全数廃棄などとんでもないことになってしまいます。

故障対策の方法は、もちろん根拠レスでは予算化はでない

しかし、予算を出す本社の方からしたら、「その故障原因は本当に寿命なのか?」「都度の対策でなんとかなるのではないか?」「類似設備でいつ故障が発生するかわからないのに、全数交換するお金なんかない。」などと社内の保全予算審議で反対意見がでて確保が難しいのが普通だと私は思います。でも、故障が発生してライン停止となり「故障で作れませんでした」などと言えるわけもなく、私たちメンテナンスの担当者は胃が痛むばかりなのです。

事例:ビール工場における故障率の高い測定機器一斉交換予算の獲得

温度センサーの故障によって故障率がどんどん上がっていく

数多く使用されているプロセス機器の例をあげてみます。私の経験でいうとビール工場であれば温度計やインバーター、各種センサーの変換器、計装機器に使われるリレーなどが良い例です。温度計に関していうと、ビールを製造するタンクや機器の数だけ温度計がついているわけで、ひとつの工場だけでも数百台の温度センサーが使われています。1℃でも誤差がでたらビールは作れなくなるので、シビアな機器管理と保全体制が要求されます。もしこれらのセンサーが一斉に壊れだしたら、とんでもないことになってしまい、想像するだけで鳥肌が立ちます。

故障に対する保全マンの勘と経験をどう形にするか?

以前私は保全を担当する方から「最近、同じような故障が増えてきている。一斉に壊れる前に交換したいのだが、なかなか今の状態を理解してもらえない。どうしたらいいだろう?」という相談を受けました。保全担当者のおっしゃる故障率の急激増加の可能性は経験からくる勘に近いものかもしれませんが、正常に動作しているものがほとんどなので、本当に寿命がきているのかどうかがわかりません。ただ、保全マンとしては「そろそろやばい時期」に来ていると感じるようなのです。1本数万円するセンサーを、勘と経験などメンテナンス担当者の感覚をたよりに数百本も交換することになるととんでもない金額になります。メンテナンス予算検討会においてもなかなか理解してもらえません。私としては何か確固たるデータで示す必要があると考えました。

設備機器の信頼性を統計学で解析し故障を予測してみる

そこで登場するのが統計学! これまで発生した故障を解析する信頼性分析です。解析結果から残された同様の機器の寿命を判断していつの時期までに機器を交換してあげるのが経済的かどうかを判断するのです。私は具体的にはワイブル確率紙を使ったワイブル分析手法を使いました。これを使って寿命を推定して保全予算検討時に脅しをかけるわけです。詳細は、日本科学技術連盟の講座などで勉強する必要がありますが、類似の故障を時系列にとらえ、ワイブル確率紙にプロットして寿命判断をします。私が日科技連でどの講座がおすすめかと問われたら、すかさず「信頼性工学ですよ。」と答えますね。

でました! 故障率の高い機器の推定寿命!

この私が経験した実際のビール工場での事例では、過去に発生した類似機器での故障モードや状況が似た故障の発生データをもとに信頼性解析をしたところ、寿命があと1年半と計算できました。その結果をもとに大多数の類似センサーを一斉交換する予算を申請しました。予算検討会では解析経緯や結果を保全担当の方が自らの経験を含めて説明し、ご納得いただいた上で問題なく保全予算を確保することができ全数交換を実施することができました。

さらに機能を加えることで再発故障が発生しないように改善できた

もちろん統計的に推定した寿命ですので、交換せずに使っていても故障は発生しなかったかもしれませんし、逆に大量の故障発生でてんてこ舞いになっていたかもしれません。ただ、正常な新品に交換することでこの先数十年は、同様の故障モードの故障は発生しないだろうということと、美味しいビールを安心して製造できることが担保されたということには違いありませんでした。また私は、全く同じ部品に交換するのではなく、しっかりと故障にいたった要因を除去した改良型の部品を採用して機器全体の劣化防止策をとることで、多分同じような故障が再発することはありえないと思います。

静止型機器の故障には充分生かすことができる統計処理

ポンプなどの動く機器は、インペラの摩耗など見てわかるので、交換限度・修理のタイミングなどは比較的短くわかりやすいですが、センサーなどの静止型機器の寿命は見た目ではわからないのと故障発生までは非常に長期にわたるものです。私がいた工場では、幸い保全にかかわる歴代の担当者の方々が、故障データを長い間蓄積していただいていたので、信頼性分析が問題なくできたのでよかったです。それがきっかけで予算確保できて適切な保全作業で皆が安心してものづくりができる環境・設備にできるわけです。私の解析というよりも昔からの技術の蓄積が実を結んだということだと私は感じています。Modern Elder Engineerの私としては保全情報の蓄えが工場の保全を変えるということをお伝えしたいです。

さいごに

まあ、「保全予算確保のために信頼性解析の結果を使って、事務方をケムに巻いただろう。」と私は当分言われ続けましたが(笑)。

2023.12.11/2024.05.08

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