やりすぎて大失敗! テスト用ビール醗酵タンクの設計・導入

格好の良いことを言っても、三十数年もエンジニアとして開発・設計をしているといろいろな失敗をするもので、特に若い頃は失敗の連続でした。一度実験用のビールタンクを作った時にやってしまいました。ビールが作れないという致命的な失敗ではなかったのですが、「やり過ぎ」ということで無駄遣いになってしまったことがありました。

ビールに使うタンクの種類

ビールのタンクは工程ごとにいろいろな特徴や機能を持っています。仕込工程で造られた麦汁を酵母と共に入れてアルコール醗酵させるための醗酵タンク、醗酵したビール(若ビールという)を入れて低音で熟成させる貯酒タンク、低温熟成が終わったビールから酵母を取り除くために濾過をするのですが、そのときに使う濾過前タンクと濾過後タンク。そして最終的に缶や瓶などの容器に安定的に充填するために貯めておく瓶詰待ちタンク。他にも酵母用のタンクや、水タンク、冷媒タンクなど様々なタンクがあります。

このとき設計したのはのはテスト用ではありますがビールの醗酵タンクでした。

テスト用ビール醗酵タンクに求められること

大きくはないですが、きちんと醗酵できる機能をもたせるだけでなく、テスト用ということで様々なデータを計測できるようにセンサーを取り付けたものにして欲しいという要望がありました。
温度計、圧力計、濃度計その他いろいろなセンサーが候補に上がってきました。

超若手が設計するビール醗酵タンク

電気屋さんの私としてはセンサーの選定などはお手のものなのですが、ビールタンク自体を設計するのは初めてで大緊張です。初めてということでいろいろ調べました。既存のコマーシャルプラントのビールタンクの形状や材質、仕様、センシング機構など調べてはみましたが、生産用のタンクは必要最小限の機能しかないことがよくわかりました。

「これは一から設計するしかないな・・・」と思い込みビールタンク以外のタンクや反応器を調べてみました。最も参考にしたのが化学プラントです。さすがに防爆・耐圧の頑丈なタンクは必要ないですが、醗酵時に発生する炭酸ガスを考慮し、それなりの圧力に耐えられてデータ測定ができそうなタンクが化学プラントでした。当時はインターネットなどなく、化学プラントの写真や雑誌、化学工学便覧などの書籍などを参考にするくらいしかありませんでした。

ビールのタンクに求められる絶対条件

それでもテスト用のビール醗酵タンクにたくさんのセンサーが付くようなタンクの設計ができました。測温抵抗体といわれる温度計や圧力発信機と呼ぶ圧力計、その他もろもろの測定器を配置しましたが、ビール用のタンクで重要なポイントが洗浄性です。

ビールの醸造に使用する酵母以外の微生物がいないのがデフォルト。設置するセンサーの取り付け位置や方向、形状など細かく検討し、通常の洗浄装置で確実にクリーンな状態になるように設計図に落とし込みました。特に温度計は上から下までいくつも配置したため死角ができないように配置しました。

設計審査会

設計が完了したので、関係者を集めての設計審査会を開催。意気揚々と説明する私に、腕組みをしながら聞く上司・先輩と醸造家の方たち。
私は熱く熱く熱心に語り、質問もいろいろありましたが、無事了承を得て発注することになりました。

美しいテスト用ビール醗酵タンク

さて、無事設計どおりのテスト用醗酵タンクが出来上がり、実験エリアに据え付けられました。

『美しい!!』

ピカピカの素敵なタンクです。各種測定器・センサーを取り付け、配線も終わりました。自動洗浄も設計通りに稼働でき、いつでも使える状態になりました。

『さあ、利用開始だ!』

しかしこの後、大失敗に気づくのです・・・

やりすぎ! 醗酵タンクの基本が・・・

実は、ビールの醗酵タンクは醗酵時に泡が大量に発生するので、上部に空寸を大きく取る必要があるのを見落としていました。ある程度の空寸はとっていたのですが、醗酵タンクとしては不足だったのです。そのため、醗酵に必要な麦汁を入れても液につからない温度計が多数発生。醗酵中の麦汁の温度の測定ではなく泡や空気の温度を測定していました。測定器のつけすぎ。やり過ぎでした。

ビールのテスト用醗酵タンクとしては完全に不合格!

わかってたのでしょうか?

ビールの醗酵はできるものの、不要なセンサーをたくさん取り付けてしまったことで、大ショックでした。あとで質問してみると醗酵タンクの目的だけではまずいが、ビール醸造におけるテスト用の多目的のタンクとして使う可能性が高いから了承したとのことでした。

自分としては、醗酵タンクのつもりで設計していたので、個人的には大失敗。しかし、身をもってこのような失敗を体験できたことは非常に大きな収穫となったわけです。

やってみなはれ!

「さすが、やってみなはれの会社やな!」と思いましたが、そうは言っても何でもかんでもやつてみなはれではないと考えています。私は「やれるもんなら」が頭に付くと思っています。考えに考えぬいてそれでもやりたかったら、自信を持ってやつてみろ。「やれるもんなら、やってみなはれ!」と。それで失敗したら仕方ないということだと今でも思っています。

しかし、若手の失敗を容認しつつ、次の用途まで考えている度量の深さというか先見の明というか代替案のすごさというか、諸先輩の皆様のすごさを思い知らされた事例でした。

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