間違いだらけのプロセス設計ー 『本当の設備設計』の意味するところ

『酒類・飲料プロセス技術開発No1』のせんべいが語る『本当の設備設計』とは?

酒類・飲料プロセスを開発設計するエンジニアの最も大切でかつ厳しく、面白い仕事が「設計」です。自らが設計した設備でウイスキーやビール、緑茶やコーヒー、炭酸飲料などが製造されるのは楽しいものです。データを収集して電卓を叩き(今はパソコンですが)アイデアを形にしていくのですが、本当に自分で設計したプロセスと自信を持っていえるかどうか。単に記録、レコードをとるだけの仕事になってませんか?

設備改造、プロセス設計は誰がやる

製品がよく売れて生産能力増強のためだったり、生産性の悪い設備は能力改善のため、他にもコストがかかるなど理由はいろいろですが、製造設備の改造はいろいろな場面で発生します。

基本的には要望や現状のプロセスの状態をプロセスレコードとしてをメーカーさんに伝えて、メーカーさんの設計者に任せます。メーカーは要求仕様を満たすために、若干の能力の余裕をもって設計します。能力ギリギリまで追い込む事はしませんが、メーカーさんなら当たり前のこと。

設備メーカーは逼迫度はわからない

ある時、生産能力増強のためにメーカーさんに設計してもらったところ、設備の総取り替えが必要でラインも長期停止になるという結果でした。営業技術の方が現場を見て設計者が図面ともらった情報をもとに設計をする。もちろん安全率を見越して設計するわけで、それはやむを得ないことです。発注する方とすれば、設備投資額が大きくなる問題もありますが最も気になるのは停止期間の長さです。

生産量を増やしたいのに止めるのは、自社営業部隊からは許されないことです。海外の設備の場合は特にそうで、英語が不得手なときはさらにひどい。設備メーカーさんと営業部隊の板挟みになり大きな課題です。

原点に戻って現場をみる

そこで原点に立ち返り、現状の課題を現場で確認しながらもう一度洗い直して方策を検討しました。オフィスで設計せざるを得ないメーカーの設計者にはできないことです。取り替える必要のある設備を一つ一つ確認し、能力アップのときの課題をつめていきました。現場での確認事項をもとに詳細に設計をしていくと、とんでもない方策を思いつきました。これが実現できれば安価に早く導入できる可能性が見えてきました。

アイデアを活かす

その方策というのは「現在使っているタンクを輪切りにして改造すること」でした。失敗すると今後一切生産ができなくなります。もちろんメーカーの設計者さんはそんな危険を避けるのは当たり前です。しかし、自分で設計することで可能性が高くなる。責任も大きいですがうまくいけばエンジニア冥利につきる話です。

アイデアを現実のものにするには

そこでまずは設計に必要な定数づくりです。現場のメンバーと毎晩生産終了後にさまざまなデータ収集を行いました。あるときは、2倍の量の水を流して変化を見る。あるときは、タンクに水をかけながら温度データを測定する。あるときは、1分おきにデータをひと晩交代で取り続ける。あるときは、跳ね返る水の水量を実験装置を作って測定する。などなど他にも必要と思われる定数や変数を測定しまくりました。

そしてそのデータをもとに計算の結果、タンクの改造による能力アップのめどをたてました。タンクの輪切りで行けそうです。

自分・メンバー・メーカーの三位一体

納期の問題を理解してもらった上で、メーカーの設計者の方に設計根拠や測定データを示して共有し、改めて設備改造方法の検討を依頼しました。ここまでやれば後はメーカーさんの腕の見せどころです。メーカーの設計者さんも情報さえあればきちんと設計できるのは当たり前です。その情報や条件まで踏み込んで自分たちが理解して示せるかどうかが肝になるのです。
新たな改造案をもとに準備。生産終了から次の生産までの間にすべての改造工事を終わらせてくれました。もちろん動作は一発OK。無事工事が完了し早速生産に取り掛かりました。

想定よりも素晴らしい結果はあたりまえ

生産開始直後から製造の結果は品質も含めて上々。以前よりも安定性が増しているとのおまけつき。そりゃー不具合のありそうなところは全て何らかの対応を打ったので、当たり前と言う言えば当たり前なのですが嬉しい結果でした。設備投資額も3分の2以下に収まり良い設備改造工事になりました。

本当の設備設計とは

メーカー設計に納得いかなければ異議をとなえる。そして腹をくくって自分で設計。もちろん設計責任は持つわけです。そうすれば現場メンバーも積極的に参画してくれて、協力会社であるメーカーさんも納得して施工。多くの方との良好な関係を構築でき、どれかが欠けても完成できない改造工事でした。その上、データ取りや改造工事を担当したメンバーから「本当の設備設計ってこういうものなんですね。」という声が聞けたのが私の1番の喜びでありました。

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